OMOで変わる、人と場所の役割 リアルアセットの持つ意味とは – 世界の流れとXD第2章(3/3)

シリーズ: 世界の流れとエクスペリエンスデザイン
– デジタルオーバーラッピング、OMO、バリュージャーニー カタカナまみれの世界観 –

このシリーズは、ビービットが拠点を持つ中国をはじめ、世界から集めたトレンドをまとめた結果出てきた「ビービット独自の視点と切り口」を、今の日本のビジネスを背負って立つ皆様にお伝えするものです。

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第2章 ビジネス編:OMO型ビジネスとは
2-2 OMOで変わる、人と場所の役割 リアルアセットの持つ意味とは

  1. リアルの強みはなくならないどころか、より活用価値が高まる
  2. 場所の価値の変化
  3. 人の価値の変化
  4. 日本が持つリアルアセットをアフターデジタルで活用しよう

※最後にお知らせがあります!!

第2章ではアフターデジタルとOMOの概要を説明してきました。アフターデジタルの社会では、「リアル接点も全て、行動データが取れるオンライン接点になる」わけで、顧客データも在庫もモノづくりも行動ログも、全てがつながっていて当たり前の世界になります。

今までは「実店舗でいつも会えるお客さんが、たまにオンラインにも来てくれる」と捉える、ビフォアデジタル(≒O2O)的な考え方だったわけですが、これからは「デジタルでいつも会えているお客さんが、リアル接点にも来てくれる(それもデジタルで可視化されている)」という考え方(=OMO)にシフトするわけです。

今回は、「では旧オフライン接点である【人】や【場所】は、アフターデジタルの社会では一体どんな役割を持ちうるのか?」ということをテーマにしたいと思います。

リアルの強みはなくならないどころか、より活用価値が高まる

日本は「人の接遇」「モノづくり」の強みがあると言われます。では、「そういった強みが活かせるリアルのアセットを持っていてもアフターデジタルの世界観においては意味がないのか」というと、そうではありません。リアルチャネルは「密にコミュニケーションを取れる貴重な接点」と言うことができるので、リアルチャネルにはより高い体験価値や感情価値が求められ、十分に強みを発揮すべきポイントになります。

例えば中国を見てみると、ECで物を買い、デリバリーフードを注文して、移動は家の前までDiDiを呼べばいいという「家を出る必要がない」生活が、デジタルの浸透によって実現されています。すると、「大した価値もないのに、わざわざ店舗やデパートやスーパーに行く必要がない」という状態になります。

アメリカでも、2019年に入って既に5,000以上のリアル店舗が閉店を発表しており、その中にはアバクロ、ギャップ、ビクトリアズシークレットのようなアパレルだけではなく、百貨店チェーンのJCペニーや、なんとあのテスラも含まれています。

それでもリアル接点(人や場)に意味があるならば、一体どのような役割を持つと考えらえるのでしょうか。

場所の価値の変化

アフターデジタル化が進んでいるアメリカや中国では、「場は体験増幅装置」として捉えられている、と言うことができます。多くの人がオンライン上の生活で満足する中、なんとか彼らを外に引っ張り出すためには、ただ普通にお店をやったり、テナントを並べているだけでは不十分である、ということです。

ここでは、以前「コーヒー大戦争」の記事投稿でも登場した、上海観光の新名所とも言われている世界最大級のスターバックスの旗艦店「リザーブ ロースタリー上海」を例に取りましょう。

「リザーブ ロースタリー」は店内に巨大な焙煎工場を併設したスターバックスの高級コンセプト店で、2014年に本拠地であるアメリカ・シアトルに1号店が登場して以来、2017年に中国・上海、続いてイタリア・ミラノとアメリカ・ニューヨーク、そして今年(2019年2月)東京・中目黒に5店舗目がオープンしています。

このリザーブ ロースタリーの上海店は、まるでコーヒー工場に入り込んだかのような、顧客体験を刺激する店構えになっています。天井や吹き抜けを含め、全方位に空間デザインが施されており、“インスタ映え”する場所なのに、決して写真1枚では店の体験や魅力が表現しきれず、実際に店舗を訪れてみたいという気にさせる仕掛けが施されています。

店内に入るとまず、2階の天井まで届くような巨大な焙煎器が目に飛び込んできます。その焙煎器に併設されたカフェは4つのエリアに分かれていて、1階はエスプレッソとドリップコーヒー、2階は手前に紅茶や緑茶、奥にコーヒーを使ったミクソロジー系(カクテルのようなもの)のドリンクを楽しむエリアになっています。

左の大きな筒状のものが焙煎樽。

更に足を踏み入れると、天井に設置された「生豆が運ばれていくベルトコンベア」が目に飛び込んできて工場に入り込んだ臨場感を醸し出していたり、巨大な焙煎所で世界中から調達したコーヒー豆を焙煎する音や香りが漂ってきたり、店内のコーヒーのスペシャリストやマスターロースターに直接コーヒーについてさまざまな質問ができたり、「最高のコーヒー体験を叶える店」というコンセプトで全てがデザインされています。いわゆる「体験型」として、全てのブースを回ることが出来るツアーも数種類用意されています。

この事例からもわかるように、「モバイルで何でも呼び出せる」というデジタル環境を前提に、リアルの店舗は、実際に来店しないと楽しめないような空間へのこだわりや、そこでしか楽しめないイベントなど、体験価値を高める潮流があります。五感に訴え、360度全方位の体験を提供するような、ある種テーマパーク化した店舗が増えているというのが実感です。

本ブログでも頻繁に事例に挙げるアリババのOMOスーパーであるフーマーも、アリババ内部の方は「リテールテインメントを追求している」と発言するほどリアル体験の充実を重視しています。だから、ピックアップされた配送用のカゴがわざわざハンガーにかけられて天井を伝って走っていったり、生きた魚が泳いでいるところを展示してその場で調理できるようにしているわけです。

生きたままの海鮮を選んで食べられるフーマー

人の価値の変化

次に、人による個別対応の価値を説明するために、「無人レジ」のお話をしたいと思います。

世界中で「無人コンビニ、無人レジ」が話題になっていますが、実はレジの無人化自体に大した価値はなく、これをやったからと言ってビジネスとして成功し得るものとは決して言えません。コンビニは常に新しい商品を入れたり、キャンペーンを組んだりする「毎日変わる新鮮味」と、そのための在庫管理の作業が重要なので、レジが無人になったとしても結局8割ほどの作業が残ってしまい、大きなコストカットにつながらないわけです。

中国では無人店舗や無人レジが増え続けた結果、多くの無人店舗は潰れていきました。この大きな社会実験の後に勝ち残った「無人」の事例では、ある共通項が見られます。レジは無人なのですが、スタッフは普通に店にいる、ということです。

レジを無人にした分、スタッフは何をしているのかというと、ホットミールを作ったり、挨拶や案内をしたり、お客さんの欲しい商品を探したりするなど、ユーザーとのコミュニケーションや、よりきめ細やかなサービスの方にそのリソースを使っています。

中国の都市部ではコーヒースタンドが増えており、会計はほぼQRコード決済ですが、現金支払いとの最大の違いは、会計が一瞬で終わるので、「ほとんど支払いを意識しなくなるようになる」点です。

支払いを意識しなくなるとコーヒースタンドは「コーヒーを買いに行く店」というより、「気のいいお兄ちゃんがコーヒーをふるまってくれる場所」という印象へと不思議と変わってきています。これまでの「エスプレッソは18元です」という画一的なやりとりは不要になり、その代わりに「おはよう、今日は何を飲む?」というトーンに変わって、おすすめの豆を紹介してくれたり、天気の話をしたりとコミュニケーションが増えていきます。

「無人化」というと、どんどんサービスが機械化していく印象がありますが、実際には人の役割をこれまで以上にコミュニケーション指向にすることが、正しい役割であると考えています。実際に中国の実証実験においては、より人間的な温かいサービスを生んでいるプレイヤーが付加価値を生み、生き残っています。

信頼や絆を生むための、ウェットなコミュニケーション」は人間にしかできないことであり、これを活用することで、企業の提示するライフスタイルやプラットフォームの上に乗ってもらったり、より強いコネクションを生むことができると考えられるのです。

上海のロボットカクテル+コーヒーのお店Ratioには、笑顔でコーヒーを出してくれるお兄さんがいる。しかもテクノロジー押しではなく、ちゃんと場として快適。

日本が持つリアルアセットをアフターデジタルで活用しよう

OMOを実践するには、デジタルテクノロジーと、人や場所というリアル接点の融合を考える必要があります。中国が得意な「体験」とは、デジタルサービスにおける利便性およびインセンティブ、つまり「便利、お得」に寄っており、これは接点頻度を重視しているからだと考えられます。14億も人がいるので、なるべく裾野に広がることを考えていて、結果、分かりやすく便利、分かりやすくお得な方が、皆ついてくるわけです。

一方で日本の得意な「体験」は人による個別対応です。人が親身に対応できるのですから、「信頼、感動」を生むことができます。思いやる、もったいない、せっかくの機会といった、英語にしにくいような日本的な言葉が示すように、対面での心遣いの品質はどう考えても日本の方が高いと思っています。

しかし、超拡大したデジタル接点を活用することで、顧客にとっての「最適なタイミング、コンテンツ、コミュニケーション」を捉えられるようになり、最適なタイミングに接点を持てるその即時性はとてつもなく高い価値を生みます。これで一気に発展したのは確かに中国ですが、仮にそれで捉えた最適なタイミングで、ユーザに対して日本らしい「人の手厚い個別対応や心遣い」を補うことができれば、それこそ「世界最高の良い体験」を提供できるようになるでしょう

この実現において最も重要なのは、アフターデジタルへの視点転換であり、これは私たちの持つ能力を最大限活用するために必須の思考法だと考えています。


さて、ここまで連載を続けてきた「世界の流れとエクスペリエンスデザイン」シリーズですが、この内容を凝縮し、更に具体的に、更に多くの事例でまとめ上げた書籍が出版されることになりました!

タイトルは「アフターデジタル – オフラインのない世界に生き残る – 」。

3月25日に、日経BP社から発売され、IT批評家であり、ご自身の書籍もヒットさせている尾原和啓さんと、ビービット藤井との共著となっています。小山薫堂さんやLINEの舛田さんからご推薦をいただいている、今のビービットにおける「世界の流れ」に関する知識の集大成です。

内容の重複が多くなるため、この連載は今回で終了となります。

いつも読んでくださった方、本当にありがとうございます。ブログで読んでちょっとでも面白いと思っていただけた方は、書籍にてより体系的にまとめましたので、更に楽しんでいただけると思います。ぜひそちらをご覧ください。

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皆さんとアフターデジタルやOMOを全力で広め、共に社会実装していきたいと心から願っております。引き続き、宜しくお願いいたします!

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