行動データの活用が社会とUXを変えていく – 世界の流れとXD 第1章(3/4)

シリーズ: 世界の流れとエクスペリエンスデザイン
– デジタルオーバーラッピング、OMO、バリュージャーニー カタカナまみれの世界観 –

このシリーズは、ビービットが拠点を持つ中国をはじめ、世界から集めたトレンドをまとめた結果出てきた「ビービット独自の視点と切り口」を、今の日本のビジネスを背負って立つ皆様にお伝えするものです。

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第1章 生活編:デジタルオーバーラッピング
1-3 行動データの活用が社会とUXを変えていく

  1. 信用度の可視化によるWin-Winサイクル「芝麻信用」
  2. データによる相互評価とインセンティブ設計がUXを高める

皆さんは、「中国でMobikeやOfoなどのシェアリングサイクルが流行っている」というニュースを見て、違和感を覚えないでしょうか?

シェアリングエコノミーという概念は、信用が前提にあります。相手が信用できないと、同じものを共有して使うことなんてできません。マナーの悪さやしたたかさ、偽物関連のニュースばかり報道されている中国で、何故そんなことが実現できているのか。

「全てがオンラインデータ化して、オフラインがなくなる状態=デジタルオーバーラッピング」については既に説明しましたが、今回は、その結果としての良い方向の社会変化についてお話しします。中国という別の国の単なる一事例にとどまらず、日本にも非常に参考になるインサイトが隠れています

信用度の可視化によるWin-Winサイクル「芝麻信用」

デジタルオーバーラッピングされた世界では、あらゆる購買行動、サービス利用の態度がデジタルデータ化されてIDに紐づいているため、私や隣にいる人が「信頼に足る人なのか」を、非常に高い精度で把握することができます。

既に日本でもニュースになっていますが、アリババ傘下の金融会社、アントファイナンシャルが作った芝麻信用(セサミクレジット、ジーマクレジット)というサービスがあります。以下のスクリーンショット上にある646という数字は、私の信用スコアです。

このスコアがあると、何ができるのか。スコアが高いと、例えばこんなメリットがあります。

  • 海外旅行の時に必要な、ビザの申請プロセスが簡易化される
  • ホテルに泊まる時や様々なサービス利用時に、デポジットが不要になる。
  • 家を借りる時、敷金が不要になる。
  • マッチングサービスで良い相手と巡り合いやすくなる。
  • フリマアプリなどのCtoCサービスで、選んでもらいやすくなる。

なかなか便利ですよね。
では、何故こんなことが可能なのか。

アリババはBtoCのECで言えば50%を超えるシェアを保持していますが、アリペイのモバイルペイメントでも50%を超えるシェアを保持しているので、例えば私のオンラインとオフラインの買い物のことは大体知っています。

それだけではありません。アリペイからは水道代や電気代の支払いができるので、支払状況の良し悪しも分かります。私のような外国人でも、税金の支払いをアリペイから行えるので、どれくらいの税を支払っているのか、きちんと支払いしているのか、なども分かっています。

さらに、割り勘するときなど、アリペイを通じて友人にお金を支払ったりするので、私の交友関係まで知っています。

実は芝麻信用では「交友関係にちゃんとした人がいるかどうか」までカウントされており、知人の点数が高いと自分の点数も上がり、逆に知人に著しくスコアの低い人がいる場合は自分のスコアも下がると言われています(ロジックの詳細までは公開されていません)。

一見、恐ろしい管理社会のように見えるかもしれませんが、点数が低いことで罰があるわけではなく、加点方式でメリットが得られるので、「真面目に生きて頑張っていれば、これまでなかった恩恵が受けられる」という方向づけがされている点が重要です。

 

普通に生活していれば著しく低い点数になることはありませんし、「開通する」というボタンを押さない限りは可視化されない仕様になっているので、選択の自由も存在しています。私自身も実際に使って暮らしていますが、管理されているという感覚はありません。

これは、自分を信用してもらいやすくなり、様々なサービスにおいて恩恵がある点でサービス利用者にとって当然便利ですが、本当に得をしているのはこれを取り入れるビジネス側です。

芝麻信用の仕組みを入れるだけで、今まで相手が信用できないから仕方なく行っていた審査やデポジットという無駄な作業をカットすることができ、仕事の効率改善ができます。

この仕組みを前提にすれば、相手が信用できるかどうかのフィルターをかけることもできるので、シェアリングエコノミーに基づくサービスを作ることも簡単になります。

例えば、いちいち書類を集めて利用申請を出す必要はなく、電話番号と自分の顔写真(またはアリペイのアカウント)さえあれば信用度が確認され、利用できるようになります。

ユーザにとっても、プロセスが短い、楽なサービスの方がいいに決まってます。あらゆる行動データが利用可能になることで、ビジネス側と利用者側にWin-Winな関係を作ったことが、このサービスの凄いところです。

データによる相互評価とインセンティブ設計がUXを高める

中国はこの3~4年で一気に民度が高まった、という話をよく聞きますが、芝麻信用だけでなく、データを使って相互評価をして互いの信頼を補うシステムが導入されるサービスが増えていることで、元々相手を信頼しない不信社会だったところが一気に改善されていると言えそうです。

分かりやすいのはタクシー配車サービスのDidi(滴滴出行、ディディ)。Uberとほぼ同様のサービスと思って差し支えないですが、私はDidiの方がすごいと思っています。

かつての中国のタクシーは、それはもうひどいものでした。簡単に騙して遠回りしてくるわ、態度は悪いわ、乗車拒否は余裕でしてくるわ…それもそのはずで、乗せた客にはおそらくもう二度と会わないので、どんな態度をとって嫌われようとも、その場で自分が得したほうがいいわけです。

それに対してDidiが本当にすごいのは、中国のこの「非接客」タクシー業界に、データによって評価するシステムを組み込むことで「サービス品質に対する責任意識」を持ち込んだ点にあります。

Didiのタクシー配車サービスは、「普通のタクシー、Express、Premier、Luxury」の4グレードに分かれ、同距離でもLuxuryになると価格が10倍近く高い一方、運転品質も高く、水もお菓子も付いています。

ドライバーは毎回の運転をスコアリングされ、一定以上のスコアを超えるとグレードを上げる試験が受けられます。グレードが上がるとより料金が高くなるので、当然ドライバーは皆、頑張ってスコアを上げたいわけです。

しかし、ここでUberのように「単なるユーザボイス評価」に頼っては、賄賂が起きてしまうのが中国。「5元やるから俺に満点つけといて」となるわけです。これでは、品質とグレードが見合わなくなるので、これを人に頼らず、ドライバー専用アプリから取得できるデータによる評価を加えたことが、非常に秀逸と言えます。

  • 早く配車リクエストに答えたか
  • 早く客をピックアップできたか
  • 適正なスピードで正しいルートで送り届けられたか

運転中に専用アプリを開くことを義務付け、上記のような「タクシー体験の満足度に関わる、速度と安全性」のデータを取って評価に使っているわけです。

結果、Didiの示すルール通りに頑張れば、給料が上がり、社会的信頼まで得られるため、街中にある普通のタクシーとは全く異なるサービス品質を獲得し、業界に大きなディスラプションを起こし、モバイルユーザのうち約40%の人が使うサービスになっています。

このように、ビジネス側(例えばドライバー)に給料というインセンティブと共に正しい方向づけをし、結果としてユーザ体験が良くなるシステムを導入しているのが非常に面白いポイントです。今の中国ではこのようなサービスがたくさん生まれることによって、「顧客に対して良いサービスや接客をすることを蓄積する」という行動が当たり前になりつつあるのです。

エクスペリエンスの質を高める時、ユーザを注視するあまり、ビジネス側の負荷が高まってしまうことがしばしばあります。

しかし、本当にユーザ中心でエクスペリエンスの質を高めるなら、ビジネス側の負荷を軽減したり、ビジネス側が良いサービスを提供しやすくなるようなインセンティブやシステムを設計することも考える必要があります。

中国は性悪説的な視点から始まることが多く、かつ実利主義な側面もあるため、こうしたシステム設計が非常に巧いです。データとエクスペリエンスの時代、こういうところは是非学んでいきたいところです。

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