スウェーデンでは数千人が体内に埋め込んだ、マイクロチップによるパーソナライゼーションの高度化

スマホ、車・家のスマートキー、銀行のキャッシュカード、定期など、現代人は多くのものを持ち歩いています。

デジタル化によってさまざまなことが便利になっていますが、これら多くのものを常に持ち歩くことで、高い紛失リスクを負っている状態になっています。それは、デジタルサービスそのものが使えなくなるリスクとも言えるでしょう。

紛失物探知アプリPixieの調査によると、米国では紛失物を探すのに費やす時間が国民1人あたり1年間に2.5日になるという結果が明らかになりました。紛失がもっとも多いアイテムは、テレビのリモコンで、その割合は45%に上りました。次いで多かったのがスマホで33%。このほか自動車の鍵が28%、財布が20%などとなりました。これら紛失物を取り替えるのに費やされる費用は年間27億ドル(約3,000億円)以上になるといいます。

紛失物探知アプリTileの調査では、オーストラリアでは毎日10人に1人がものを失くし、紛失物を探すのに29分費やしていることが分かりました。紛失がもっとも多かったのは財布で34%。次いで、スマホ26%、家の鍵24%、銀行のカード24%などとなりました。これら紛失したものの価値は年間に12億ドル(約1,300億円)になるようです。

ものを紛失しないようにするにはどうすればよいのか。常に肌身離さず持っておくのが最良の解決策といえるでしょう。これを究極の形で実現するのが、デジタルデータが保存された微小のチップを体内に埋め込むマイクロチップ技術です。

日本ではまだ馴染みのないトレンドですが、米国やドイツ、スウェーデンなどではすでに数千人が体内にマイクロチップを埋め込み、アクセスキーやEウォレットなどさまざまな用途で利用しています。現在も試行錯誤が続けられており、クレジットカードとして使えるようになるともいわれています。今回は、マイクロチップにまつわる最新動向を紹介するとともに、それが顧客体験をどのように変えるのか、その可能性を探ってみたいと思います。

スウェーデン、ドイツ、米国で続々、マイクロチップを体内に埋め込む人々

マイクロチップの埋め込みがもっとも盛んといわれているのが北欧スウェーデンです。

AFP通信が2018年5月に伝えたところでは、スウェーデンではこれまでに約3,000人が米粒サイズのNFCマイクロチップを体内(主に手の甲)に埋め込み、鍵やクレジットカード、電車のチケットとして利用しているといいます。

スウェーデンのメディア企業に務めるある女性は、手に埋め込んだマイクロチップを勤め先のアクセスカードとして、またジムの会員カードとして利用しているようです。

スウェーデンでマイクロチップの埋め込みが流行り出したのは2015年頃。当時は、トランスヒューマニズムやバイオパンクと呼ばれるムーブメントの文脈で、自らの身体をサイボーグに変換しようというバイオハッカーたちがマイクロチップを体内に埋め込んでいました。

このようなムーブメントの影響もあり、いまでは一般人にも広く認知されるようになっているといいます。そのことは、スウェーデンの国有鉄道会社SJが2017年6月から、体内マイクロチップを利用する電車チケット予約システムを導入したことからもうかがうことができます。マイクロチップ利用者は、オンラインで電車チケットを予約、その情報をマイクロチップに記録し、車内でスキャンされることで、本人と予約情報が確認されるというもの。

スウェーデンの国有鉄道会社SJが導入したマイクロチップ・チケットシステム(YouTube Dezeenチャンネルより

スウェーデンでは個人情報を共有する文化が根付いており、それがマイクロチップの利用者が多い理由の1つといわれています。スウェーデンでは政府機関が運営する社会保障システムに国民の個人情報が登録されていますが、これはスウェーデン在住者であればオンラインで誰もが閲覧できるようになっているといいます。閲覧できる情報には、氏名、住所、電話番号、婚姻関係、さらには給与までもが含まれています。

スウェーデンのほかにはドイツでも数千人がマイクロチップを埋め込んだといわれています。

ドイツもスウェーデンと同様にキーや会員カード、またセキュリティカードなどの代わりとして利用されているようです。なかには、マイクロチップに自身の遺書のリンクを記録させた人もいるといいます。

ドイツのマイクロチップ利用を普及させているのは、地元のスタートアップ「I am Robot」。Euronewsによると、ドイツで唯一NFCマイクロチップを販売している企業といいます。同社創業者のスベン・ベイカー氏は、起業した2015年以来、ドイツでは2,000〜3,000人の人々がマイクロチップを埋め込んだと推計しています。

I am Robotのウェブサイトでは60〜80ユーロほどでマイクロチップを購入でき、購入後は専門の施設、または同社が提供する注射器で、埋め込むことになります。同社のマイクロチップと連動するドアノブなどを導入すれば、マイクロチップを鍵として利用できるようになるといいます。

I am Robotウェブサイト、マイクロチップ販売ページ
https://chip-implants.com/shop/nfc-implant-x2/

一方米国ではウィスコンシン州のソフトウェア会社「Three Square Market(32M)」が2017年に従業員にマイクロチップの埋め込みを推奨。同社従業員196人のうち、92人がマイクロチップを埋め込んだといいます。マイクロチップは、専用のスナック自動販売機での買い物、ドアの開閉、パソコンのログインなどで利用できるようです。

これまでにマイクロチップを埋め込んだ従業員のうち、取り除いたのは1人のみ。大半の従業員は、その利便性を気に入りいまでも利用しているといいます。

32Mはこの経験を生かし、本格的にマイクロチップ事業を開始するようです。2018年8月米CNBCが報じたところでは、同社は体温を動力とするマイクロチップを開発。GPS機能と音声認識機能のほか、バイタルサインを検知する機能も付いており、主にアルツハイマーや認知症など医療向けでの利用を想定しているようです。

マイクロチップによるパーソナライゼーションの高度化と体験変容

現時点でのマイクロチップ技術と利用状況を鑑みると、近い将来マイクロチップからさまざまなデータを取得し、それらを活用したパーソナライゼーションの一層の深化と体験変容が起こることが想定されます。

現時点では、服の色や形など簡易なパーソナライゼーションは可能ですが、身体のバイタルサインなどを活用した高度なパーソナライゼーションは困難とされています。

しかし、32Mが開発するようなマイクロチップが登場したことで、それが実現できるようになるかもしれません。高度なパーソナライゼーションはヘルスケアやフィットネス分野で求められています。

たとえば、どの時間帯にどの場所で、どのような身体状況なのか。コルチゾールからストレス度合いを測ることも可能になるかもしれません。これらのデータから、どこで何をすれば、身体はどのような状態になるのかが分かり、その身体状況に応じた食事やサプリ、また適切な休息方法などを示すことができるようになります。

アマゾン・ゴーなどの店舗と連携することができれば、身体の状態に応じた最適な品物を選ぶことができるようになるかもしれません。冒頭で述べたように、マイクロチップを埋め込むことで、鍵や、クレジットカードをなくす心配もなくなります。また現在研究開発が進むスクリーンを映し出すスマートコンタクトレンズや耳に埋め込むスピーカーなどが実用化されれば、スマホもいらない完全ハンズフリーの状態を実現できるかもしれません。利便性が向上するだけでなく、高度なパーソナライゼーションを可能にする。これがマイクロチップに多くの関心が注がれている理由といえるでしょう。

マイクロチップの埋め込みには関しては、プライバシーを侵害する といった批判があり、今後広く普及するためには多くの人々による議論が必要になるはずです。もし、スウェーデンのような社会システムや文化を構築できるのであれば、マイクロチップがスタンダードになる日はそう遠くない未来にやってくるのかもしれません。

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