「楽しい」で人を動かす企業のゲーム活用最前線〜これからは「内的モチベーションデザイン」へと深化

「ゲーム」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。「マリオ」「テトリス」「ドラゴンクエスト」などを思い浮かべるかもしれません。「スマブラ」「キャンディークラッシュ」という回答もありそうです。

一昔前は、コンソールかパソコンでしか遊べなかったゲームですが、最近ではモバイルデバイス向けにも多くのゲームが登場しており、ゲームを楽しむ人は増えています。

ゲーム専門リサーチ会社Newzooは、2018年の世界のゲーム人口は23億人に達し,ゲーム市場の売上高は1379億ドル(約15兆)になると推計しています。2012年の売上高は700億ドルほど。6年で2倍近く増加した計算になります。今後も市場は年10%以上の成長率が見込まれており、2021年には1800億ドル(約20兆円)に達するといいます。

近年では、モバイルゲーム市場の拡大が加速。2018年の売上高全体に占めるモバイルの割合は51%を超えました。この先モバイル比率はさらに高まる見込みで、2019年には54%、2020年には57%、2021年には59%に達する見込みです。

急拡大するゲーム市場。これと並行して増えているのがマーケティングにおけるゲームの活用です。非ゲーム文脈にゲームの要素を取り入れ、楽しい体験を生み出し、ユーザーのモチベーションやエンゲージメントを高める手段として、さまざまな企業が実践し始めています。

今回は、海外企業の最新事例を紹介しながら、ゲームが実現する未来のユーザー・エクスペリエンスの一端を覗いてみたいと思います。

ラグジュアリーブランドも取り入れるゲーム施策

ゲーム活用の取り組みが企業の間で始まったのは2010年頃。当時はスターバックスが位置情報サービスのフォースクエアと提携し、チェックイン数に応じバッジを付与する取り組みを行っていたり、ドミノ・ピザがピザづくりゲームアプリを通じた顧客エンゲージメントを高める施策を行ったりしていました。このほかにもさまざまな取り組みが実施されてきたようですが、リテール分野では依然開拓の余地が非常に大きいと見られています。

最近では巨大な消費者市場である中国でのゲーム施策が増えています。スマホとモバイルゲームが広く普及しており、リテールブランドにとってはゲームを通じてエンゲージメントを高めやすい環境が整っているためです。冒頭で紹介したNewzooの調査によると、2018年世界のゲーム売上高1379億ドルのうち、中国は379億ドルと全体の28%も占めているのです。

中国ミレニアル世代は一人っ子政策の影響により、ほとんどが兄弟姉妹のいない環境で育っています。そのため社会的なつながりを求めてオンライン・ゲームやインターネットを利用する傾向が強いと言われています。

中国の若い世代で醸成されるゲーム文化に溶け込むため、世界的なラグジュアリーブランドもゲーム施策を取り入れ始めています。

フランスのコスメブランド「ゲラン」は2017年末頃、リップスティックコレクションのプロモーションでWeChatゲームアプリをローンチ。テトリスのようなゲームで、ローンチ後10日間で1万人のプレイヤーを獲得したといいます。

このゲームは何度も挑戦することが可能で、5000ポイント以上獲得するとリップスティックが当たる機会を得ることができました。ゲーム終了後に名前や電話番号などの個人情報を入力すると抽選に参加できたようです。ゲランは、ゲームを通じてブランド認知を高めただけでなく、データベースも構築できたことになります。

一方、ディオールは上海ストアのオープニングの際、ブランド認知を高めるゲームをローンチ。プレイヤーはゲーム内で6つのアイテムを見つけることができると、オープニングセレモニーの参加チケット獲得のチャンスを得ることができました。

このほか、フランス発祥のダウンジャケットブランド「モンクレール」や「バーバリー」など数多くのラグジュアリーブランドが中国市場でのプロモーションでスマホを使ったゲーム施策を実施しています。

ラグジュアリーブランドだけでなく、コンシューマブランドもゲームを活用し、顧客エンゲージメントの改善を目指しています。

ジョンソン・アンド・ジョンソンは、顧客エンゲージメント改善のため、中国のスーパーマーケットにおける子供向けプロダクトの売り上げを回復させるゲーム施策を実施しました。具体的には、中国大手スーパー、RTマート店舗内に巨大なARスクリーンを設置。スクリーンには同社プロダクトに似せたアイテムが映し出され、タッチすることでアイテムを獲得していくゲームです。主に子供の関心を惹くことが狙いです。ゲーム終了後、子供の写真がいくつか表示され、親はディスプレイに表示されるQRコードをスキャンすることでお気に入りの写真を獲得することができます。小さな子どもを持つ若い親世代のエンゲージメントが高まると考えられます。

ジョンソン・アンド・ジョンソンが中国で実施したARゲーム施策(Ksubakaチャンネルより)

中国のほかには、ロシアで興味深い取り組みが実施されるようです。

雑学クイズボードゲーム「トリビアル・パスート」をコンセプトにしたホテル「Trivial Puesuit Hotel」がモスクワに登場するというのです。

日本ではあまり馴染みがないゲームですが、17言語に訳され26カ国で販売、2014年末時点で販売数は累計1億セットを超えたと言われている世界的に普及しているゲームです。

Trivial Puesuit Hotelでは、お金を払う代わりにクイズに答えていき、そのスコアによってプレミアムサービスが受けられるようになるといいます。予約をするときもクイズに答えなくてはならないようです。このホテルは2019年5〜6月にモスクワに登場する予定です。

Trivial Puesuit Hotelウェブサイト
https://trivialpursuithotel.com/en/

これまでのゲーム施策の考察と2019年以降のシナリオ

これらのゲーム施策はユーザー心理にどのような影響を与えているのでしょうか。

マーケティング分野におけるゲーム活用の影響・効果に関する研究やデータはまだ少ないのが現状ですが、心理学の理論からこれら施策の影響や効果を推察することができます。

ドイツ・ミュンヘン大学の研究者らによるゲーム活用の効果・影響分析で、重要とされたのが「自己決定理論」です。この理論では、人間は3つの心理的に固有の欲求を持っていると仮定します。その3つとは「能力欲求」「自律欲求」「社会的欲求」です。

能力欲求とは、何かに取り組み成功したいという欲求。自律欲求とは、心理的な自由を獲得すること、また自発的に何かをやりたいという欲求。社会的欲求は、社会のグループに帰属したり、誰かとつながりたいという欲求のことです。

もしゲーム施策がこれらの内在する欲求を満たすものであれば、内発的に動機付けが行われている可能性が高いといいます。

またそれぞれの欲求には、それを満たす適切なゲーム要素があると考えます。たとえば、ポイント、バッジ、順位表などは能力欲求を満たすもの。自律欲求にはアバター(心理的自由を与える)やストーリー(タスクに意味を持たせる)、社会的欲求にはチームプレイやストーリーが当てはまります。

このフレームワークを用いて上記のゲーム施策の効果を考察することができます。

ゲランのテトリスゲームでは、ポイントシステムがあるので能力欲求を満たした可能性があるといえます。一方、自律欲求や社会的欲求に対応する強い要素は確認できません。この状態は、自己決定理論の「外発的動機付け」に近いものといえるので、心の底から強いモチベーションを生み出したとは言い難いといえます。

その他の施策も同様に、能力欲求には対応していますが、自律欲求や社会的欲求を満たす強い要素はないといえるでしょう。ただし外発的動機付けでもユーザーの短期的な関心を得ることはできるので、リテールブランドにとってはブランド認知を高める効果があったといえます。

ユーザー・エクスペリエンスを考える上で最も理想的なのは、「楽しいから自発的に何かをやり続ける」という内発的動機付けがなされている状態です。今後は、同分野の研究の発展にともない、能力欲求、自律欲求、社会的欲求すべてを満たすゲーム施策が出てくることが考えられます。

実際『Actionable Gamification』の著者で、人にフォーカスしたゲーミフィケーションデザインを提唱する同分野エキスパートのユーカイ・チョウ氏はフォーブス誌の取材で、2019年はゲーミフィケーション(ゲーム化施策)が「より深化する」という見解を述べています。

リワードとインセンティブを基にした「外的モチベーションデザイン」から、タスクを心の底から楽しいと思える環境をつくる「内的モチベーションデザイン」にシフトしていくというのです。

外的モチベーションデザインでは、常にインセンティブを与え続ける必要があり、インセンティブがなくなると人は行動を起こさなくなってしまいます。一方、タスク自体を楽しく意味があると思えるようになると、モチベーションを長期に渡って維持することが可能となります。

今後リテールだけでなく、ヘルスケア、教育、金融などさまざまな分野にも広がる可能性があるゲーム活用。UXデザインとゲーム化施策デザインの垣根はこの先なくなっていくのかもしれません。

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