コーヒー大戦争 -スタバの中国売上にみるOMO型ゲームチェンジ

ビービット上海に駐在する34歳の私は、元カフェ店員。コーヒーのドリップ器具を会社に置いていて、1日3杯は確実にコーヒーを飲む程度に、まあまあコーヒー好きです。

海外にいると、スターバックスはとにかく安心できます。品質はある程度安定していて、多少英語が通じ、注文の仕方も同じで、まさにグローバル・サードプレイス。

そんなスタバの中国での状況はというと、14億人の市場において141都市に3,300店舗を展開。注力ぶりは凄いものがあり、2018年5月の発表では、2022年まで1年あたり600店舗増やし、6,000店舗を目指すとのこと(j-people.comより)。
焙煎所がついた「スターバックス・リザーブド・ロースタリー」(世界でニューヨークにしかなかったタイプの店舗)を上海に作り、6月にオープンした北京の基幹店は、ロースタリーを除くと世界最大の店舗だそうです。

上海では、実際に住んでいる私の感覚からしても、スタバに限らずコーヒーショップが増えている印象がありましたが、中国産業情報ネットによるとコーヒー市場は元の規模が小さいこともあって、市場規模拡大率は年25%以上(世界水準の10倍)らしいです。なんという成長。

にも、かかわらず。

ロイター通信7月31日付のニュースによると、「第3・四半期(7月1日まで)決算は、中国の既存店売上高が2%減少した。前年同期の7%増から大きく落ち込んだ。」とのこと。想定通りにいっていないことを認めた上で、ついに中国のデジタルジャイアント、アリババと提携し、配送とビッグデータ活用への注力を行うと決めています。

この状況、中国に住むコーヒー好きの観点から見ると、とてもよく分かります。

例えば、元々私は台湾でも中国でも、1日に2回はスタバに通うロイヤルカスタマーでしたが、今は週に2、3回行く程度になってしまっています。

戦略上の分岐点や投資判断の是非は、さらにレイヤーの高い方々に譲るとして、この記事では、何故そんな変化が起きるのかを、ユーザとマーケット変化の交わる視点から書いてみたいと思います。

日本とかけ離れている「市場の競争原理」

この話をする上で、2つの「中国デジタル環境の先進性」をお伝えする必要があります。

  1. モバイルペイメントが広まって、現金使用率は3%以下。現金が使えない店が出てきたり、上海では交通カード(スイカやパスモなど)のチャージも現金では出来ず、携帯から行う。
  2. こういった状況を背景にフードデリバリーサービスが広まり、街中でのどんな店でもサービスに登録されていて、デリバリーサービスのアプリを入れていない人がほぼいないほどに広く浸透している。

これについては、Uber eatsや出前館など、近いサービスが日本においても存在していますが、上記のように「規模が全く違う」ことを念頭に置いていただけるとよいかと思います。

スターバックスは、この背景を知ったうえで、これまで中国ではデリバリーサービスに手を出してきませんでした。サードプレイスというポジショニング、デリバリーとエスプレッソ系商品の相性の悪さ(冷める、氷が解ける、泡がなくなる)など、様々な観点で考え抜いた結果なのでしょう。2017年は、それでも伸びていたし、当時のゲームルールとしてよかったのだろうなと思います。

では、この1年で何が起きたのか。現地で生活するコーヒー好きビジネスマンの視点から、お話ししたいと思います。

デリバリーが起こしたマイクロビジネスの乱立

ここ数年中国では、アーラマ(饿了么、ウーラマ)やメイトゥアン(美団外売)といった「デリバリーサービス=ドライバーのネットワーク」を提供するビジネスが急速に拡大しています。このことは、各店舗がデリバリー専用のドライバーを雇う必要がなく、しかもピークタイムでも座席数や回転数に関わらずお客さんを囲い込むことができることを意味します。

そんな状況を背景に、最近都心部にはスタンド型のお店が増えています。スタンド型というのはイートイン座席がない、カウンターとキッチンだけの狭いお店を指しています。

ここまでデジタルサービスが浸透すると、イートインスペースを持つことに大した意味はなくなります。回転率という制限から解放され、周りにある家やオフィス全てに、絶えず門が開かれている形になります。むしろ重要なのはオペレーション、つまり「注文が来てからどれだけ早く商品を出せるか」です。何故なら、デリバリーを頼むユーザは、家から遠いかどうかよりも、「何分で届けてくれるか」を重視するからです。

人通りの多い場所に店舗を構えれば、店の名前を認知されたり、通りすがりの人が買ってくれたりしやすくなります。住宅密集地であれば、例えば半径3km以内に住む人々の人数は増えるし、一方通行の道路沿いに店を作ると、デリバリーを届けるのが遅くなります。とにかく立地がより重要になっているわけです。

※ビービット上海オフィスの近く、一等地にある小さいけど大きいコーヒー店「Narrow Gate」

立地の良いところはもちろん家賃も高額で、これまでコーヒーショップがそんな場所にお店を出すのは難しかったわけですが、イートインスペースを持つ必要がなくなったため、それこそ4帖程度しかない小さなスタンド型の店であっても運営することが可能となり、省スペース・小資本での出店が加速しました。

具体的に、私の生活に何が起きたかご説明しましょう。
元々は、毎朝スターバックスを一杯買って会社に行き、昼過ぎにもう一杯買っていました。会社から歩いて200mくらいの、比較的近い場所にあるスタバです。ソイラテのグランデ、31元(約500円)です。

今は、会社の地下1階にできたNarrow gateという店に行っています。こだわりがあるオーナーがやっていて、正直エスプレッソはスタバより全然おいしく、トールサイズくらいの大きさで20元(約340円)です。とても狭く、5平方メートルくらいでしょうか。管理にコストがかかっていないので、よいコーヒーでも安く出せます。
オフィスからエレベータを降りたらすぐという近さなので、私は一日3回は利用しています。一杯20元なので合計60元(約1,020円)です。

前述の通り、管理コストが下がり、良い立地に進出しやすくなり、味にも注力しやすくなったことで、こうしたコーヒースタンド型マイクロビジネスが新たに乱立し、スターバックスはそちらに利用客を奪われているわけです。
他にも様々な要因があるとは思いますが、間違いなくこれはスターバックスが売上を下げる一因になっていると思います。

オンラインオフライン関係なく「好きな方法が選べる」、OMO型コーヒーショップ

今、中国ではOMO型のビジネスが勝つ構造になっています。OMOとはOnline Merges with Offlineの略、李開復という方が提唱した概念で、「デジタル時代の勝ち筋、ビジネス思考法」と思ってください。

さらに詳しい説明は別途、「世界の流れとエクスペリエンスデザイン」シリーズで行いますが、簡単に言うと、「オンラインとオフラインを分けることは、2つの意味で価値がなくなっている」ということを言っています。モバイルやIoT、センサーなどの普及で、常時オンラインに接続されて全ての買い物や行動履歴が活用可能なオンラインデータになると、

  1. もはやオフラインが存在しない状態になっており、どんな状況においても、ID付きのオンラインデータが取れる。
  2. オンラインやオフラインといったチャネルで分けるのはビジネス視点であり、ユーザは「その時一番便利な方法」を選んでいるだけである。

モバイク(摩拜单车、Mobike)やデリバリーサービスもOMO型と言えますし、最近話題になっているアリババによる新型スーパー「フーマー(盒馬鮮生)」も同様の考え方です。
これをコーヒーショップで実現したのがラッキンコーヒー(Luckin Coffee)です。WBCというコーヒーのコンテストで受賞したアラビカ種の豆を使っているなど、品質が高いと言われていて、実際味もなかなかのものです。今年に入ってからの8ヶ月で店舗数をなんと800にまで増やしており、このうちほとんどの店は、席がなく、ピックアップとデリバリーに特化したものになっています。

重要なのは使い方。

まずアプリからしか買えません。しかし、アプリをダウンロードすると一枚コーヒーのタダ券がもらえます。新しいOMO型で、しかも美味しいらしい、となると、みんな試しにダウンロードします。

頼み方として、2種類を選べます。デリバリーしてもらうか、自分で取りに行くか、です。自分で取りに行く場合、購入後に発行される番号つきQRコードを、店で見せるだけです。なので、行く直前に頼んで作ってもらえばそのままピックアップできるし、お店についてから友達と一緒にアプリ上で決めて、席に着いたまま注文することも可能です。

買い方も2種類選べます。そのままモバイルで支払うか、先にコーヒーチケットを買っておくか、です。コーヒーチケットは、2枚買うと1枚タダ、5枚買うと5枚タダでもらえます。ビービット上海の総務担当は、みんなでコーヒーを頼むときのためにチケットをある程度買い溜めています。おいしいコーヒーが半額で飲めて、経費も浮きますからね。

さらに融通が利くことに、おごったり、誰かに取って来てもらったりすることも簡単にできます。購入するともらえる番号付きQRコードは、人にシェアすることが簡単にできます。このコードをさっと人に送るだけで、お礼や、プレゼントや、代理で取ってきてもらうことが可能です。

一方で店舗を見てみると、とにかく番号札の順番通りにコーヒーを作っています。ユーザが来て番号を言われることもあれば、デリバリーの配達員が来て番号を言われることもありますが、店員にとってはどちらにしても、番号通りに作って、番号を言った人に渡すだけです。OMOの真髄は、オペレーションの簡易化にもあります。

さて、もう一度、これによって私の生活に何が起こったか。
まず、オフィスでみんなで飲み物を頼むとき、今までは台湾式ミルクティーをデリバリーで注文するか、スターバックスまで買いに行くかだったのですが、これらの習慣は全てLuckin Coffeeに淘汰されました。
さらに私自身、どうせ毎朝コーヒーを買うので、3回に1回くらいの頻度で、ビルの下のNarrow Gateではなく、朝ご飯込みのLuckin Coffeeになっており、コーヒーチケットが絶えず溜まっています。

私がスターバックスに行くのは、土日にサードプレイス的に使うときのみ、になってしまいました。OMO型のビジネスは、既存プレイヤーや個人の行動習慣に対しても、大きなインパクトをもたらしています。

スターバックスはアリババと何をやるのか

中国スターバックス社による起死回生の一手、「アリババとの提携戦略」において、発表されているのは以下のことです。

  • アーラマのドライバーの中から、スタバ専用のドライバーを確保する。
    これは提供速度の速さを意味します。通常のアーラマ配達員は「30分以内に届ければよい」という判断なので、複数のデリバリー案件を同時に持ちますが、専用のドライバーなら、できた瞬間に配送開始、寄り道せずに届けることが可能になり、速度の利を取ることが出来るでしょう。
  • フーマーからスタバを頼めるようにする。
    今アリババが大成功させている、OMO型スーパーマーケットのフーマーの中にスタバを作り、他の商品と一緒に注文することも可能になります。
    非常に人気のあるフーマーの中に入口ができるため、他の生鮮食品を頼むときについでに頼んだり、毎日接点を持ったりすることが出来るでしょう。

確かに論理的には、そもそも今までできなかったデリバリーが出来るようになる上に、上記のようなメリットが増えます。しかし、私が書いた2つの状況変化(マイクロビジネスの乱立と、OMO型コーヒーショップの登場)に対して、これらの打ち手は新たな価値を提供できるのでしょうか。私は、スターバックス自体がシェアやディスカウントという中国の文化に適応させた上で、OMO化して初めてまともに戦えるのでは、と思っています。

最後に

本記事は、私の海外生活を支えてくれているスターバックスへのエールとともに、OMO型ビジネス(デリバリーサービスとLuckin Coffee)が、如何に既存型のビジネスモデルを破壊するポテンシャルを持っているのか、を伝えることを目的としています。

こうした変化は、やがて日本にも起き得ることだと思います。
この先政府の規制緩和が進み、あらゆる企業がペイメントサービスに乗り出すと、デジタルオーバーラッピング、つまり全ての行動がオンラインデータ化する状況がすぐにやってきます。その時の勝ち筋は、日本においてもやはりOMO型のビジネスモデルなのではないかと考えています。

世の中の価値の源泉が、「体験の質」や「顧客接点の頻度」にどんどん移行しています。是非、この話が全てのビジネスマンと全てのコーヒー好きに伝わればいいなと思っています。


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