アフターデジタルを考える勉強会レポート第1回:人間が本当にすべき仕事とは?

ありがたいことに、大変な反響をいただいている書籍「アフターデジタル – オフラインのない時代に生き残る」。

実は発売前、この本に書かれているようなこれからのデジタル化社会に、企業やサービスはどうあるべきかを考える勉強会が開催されました。

デジタル化というと中国やエストニアの例が多く取り上げられますが、「実は日本でも、同様に先進的なOMOの取り組みがあるんだ!という話をしたい」という尾原さんの言葉通り、国内外の最先端事例がパネルセッション形式で紹介されました。

パネラーは、共著者であるビービット藤井に加え、パルコ 執行役グループデジタル推進室担当の林直孝さん、LINE 執行役員事業戦略室室長、兼、LINEヘルスケア代表取締役の室山真一郎さんという豪華な顔ぶれ、聴衆も日本のデジタル化の最先端にいる方々ばかり。

この記事では、勉強会の様子をダイジェストでレポートします!

撮影:下玉利 尚明=タンクフル

そもそも、アフターデジタルって?

このブログでも何度も取り上げている「アフターデジタル」という概念、詳しくは下記の記事をご参考いただきたいのですが、ものすごく簡単にいうと、モバイルデバイスやセンサーが普及したことで、ユーザのあらゆる行動がデジタルデータとして取得可能になった世界、もっと端的にいうなら「もうオフラインはない!という状態」(尾原さん)を意味しています。

「アフターデジタル」参考リンク

尾原さんの言葉を借りれば、アフターデジタルの要点は「スマホを通して常にネットに接続する状態になったことで、企業が日常的にユーザと接点をとれるようになり、結果として全ての行為がログとしてとれるようになったこと」。更にAI技術の発展によって、収集したログの解析もリアルタイムで行えるようになってきています。

一方で、デジタル化が進むと人の仕事がなくなって、大規模なリストラが横行するんじゃないか、という懸念もよく聞かれます。しかし実は、デジタル化が進むことで人員を増やすことになった、という実例があるんです

デジタル化の結果、リストラどころか人員を増やした保険会社の話

それは、中国平安保険グループ。このブログではおなじみの、Fortune500で39位(2017年)にランクインしている企業です。

勉強会では、この企業が出している「平安グッド・ドクター(平安好医生)」というアプリをもとに、なぜ営業マンやコールセンターなどの人員を増やすに至ったかが説明されました。

アプリのサービス内容は、「医者の食べログ + 健康の楽天ポイント」(尾原さん)です。病院ごとのユーザレビューや医師の経歴などが確認でき、診察の予約からデジタル処方箋の発行、更には薬のデリバリまでがアプリ上で行えます。また、歩数計と連動していて、毎日の歩数に応じてポイントが付与されるようになっています。

このアプリの何がすごいのか、藤井は次のように説明しました。

藤井「保険会社って、契約の次に接点をもつのは、亡くなったときだけだったりしますよね。ですがこのアプリがあることで、平安保険は保険会社なのにも関わらず日常的にユーザと接点を持てるようになったんです。」

平安保険の営業マンは、初回の営業では保険を押し売りせず、グッド・ドクターアプリをダウンロードしてもらい、使い方を説明するところまでで帰ってくるんだそうです。

アプリのデータからはそのユーザがどんな健康情報に関心があって、いつ病院を予約しどんな薬を処方されたのかが、リアルタイムにわかります。するとAIからコールセンターや営業マンに、接触するのにベストなタイミングが通知されます。

でも、そのタイミングでも、まだいわゆる”営業”はしません。「上の子のために病院を予約したらすぐに平安保険の営業マンから電話がかかってきて、病院に行っているあいだ下のお子さんの面倒をみていましょうかと言われた、という例があるくらい、あくまでも信頼構築に力を尽くす」(藤井)のが、人のやること。

そうしたプロセスを繰り返し、この会社は自分のためになることを提案してくれるんだ、という信頼感ができはじめると、もはや細かな保険商品の説明をしなくても選んでもらえるようになるそうです(もちろん、保険商品を誠意をもって選ぶ部分でも手を抜きません)。

藤井「それまでは10件営業して1件も契約がとれないことも珍しくない状態だった営業マンたちは、デジタル化が始まって以来無駄な仕事が減って、あまった時間をユーザがずっと平安経済圏にいてくれるような信頼関係を作ることに使っているんです。」

本当に必要な仕事、そして人間にしかできない仕事、それが信頼関係を築くことです。そして、信頼関係ができていれば、自然と商品は売れる。だからこそ、平安保険では人員を増やしていたのです。

中国平安保険グループ本社

機械に任せていい仕事、人間にしかできない仕事

この一連の流れを、尾原さんはこうまとめます。

尾原さん「保険というのは、実はユーザが健康な方がもうかる商売なんですよね。だから、なるべくユーザを健康な状態に導きたい。でもそれって、必ずしも人がやる必要はなくて、機械でできるならそれでいい。そうやって機械に任せられることが増えて、使える時間が増えた人間は”ユーザの不安に寄り添う”ことに集中する、というのが平安保険のやっていることなんです。」

機械に任せればいいことと、人間が対応すべきこと、という考え方を理解するときに参考になるのが、カスタマーサクセス理論です。この理論では、企業とユーザの接点(タッチポイント)をテックタッチ・ロータッチ・ハイタッチの3種類にわけて考えます。

テックタッチは、テックつまり技術を使った接点のこと。ウェブサイトやアプリ、メールなどのデジタル接点を使うことで、時間や場所にとらわれず多くのユーザに情報を伝えられるのが利点です。

ロータッチは、1対多である程度テンプレート化できるコミュニケーションのことで、セミナーや講習会、ファンミーティングなどが当てはまります。人が対応することで、その場にあわせた対応や熱量を持った情報伝達が可能ですが、あくまで一方向のコミュニケーションで個別対応はしない分、企業側のコストは比較的少ないのがポイントです。

ハイタッチは、1対1のコミュニケーション。個別の相談や商談をイメージしてください。ユーザのニーズに柔軟に対応できるのが最大の利点ですが、企業側もユーザ側も相応のコスト(時間や精神的負荷を含む)を払う必要があります。

この分類は、どれがいい・悪いという話ではなく、実現したいことに対して最適な手段を選ぶためのヒントになるものです。

アフターデジタルな世界では、この3つを適切に組み合わせることがユーザとのより良い関係生むのだと藤井は言います。

藤井「普段はデジタルで日常的な接点を持っている上で、たまにリアルで会えた時には、そのデジタル接点で得られたデータも活用して、とても親切で、いい意味でウェットなコミュニケーションをとるというのが成功企業のやっていること。これは、テックタッチをうまく使って、ハイタッチのクオリティを上げている、ということなんですね。」

そして、実は日本でもそんな取り組みが始まっているそうなんです。とても興味深いお話なので、回を改めて詳しく解説します!

 

■この勉強会のきっかけになった書籍はこちら
「アフターデジタル – オフラインのない時代に生き残る」

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