アフターデジタルとビービット(2) – 事例で読み解く「UX企画力による幸せな状況の実現」

前回は、アフターデジタルは状況ターゲティングの時代であることを解説し、ビービットは企業が状況ターゲティング時代に適応していく支援をしているというお話をしました。

今回はビービットが具体的にどんな支援をしているのか、実例に沿って見ていきたいと思います。

UXデザインで目指すのは「幸せな状況」の実現

ビービットが支援した事例のお話をする前に、少しだけ前回の復習をします。

アフターデジタル時代に企業が解くべき課題は下図にまとめた3つでした。

このうち1と2を解くため、ビービットではUXデザインコンサルティングというサービスを提供しています。

そして、コンサルティングプロジェクトのステップは 下記の通り。

  1. ユーザが違和感を感じている状況を発見する
  2. それが解決されマイナスがプラスに変わった「幸せな状況」を描く
  3. それを実現するための「鍵となる体験」を設計する

ビービットが関わったものではありませんが、こうしたプロセスを見事に実現している実例を1つ紹介します。

ある小児医療の現場では、MRIを使った診療の際、実に8割のケースで麻酔を使わざるを得なかったそうです。ただでさえ具合の悪い子どもに麻酔を使うことには、保護者も医療者も心を痛めていました。

この状況を打開したのが、1人の技師。なんとMRIのある部屋全体を海賊船に見立てて改装してしまったのです。

検査を始めるときに「怖い海賊がいるから、見つからないようにこの中でおとなしくしているんだよ」とささやくと、子どもたちは機械の中でじっとして、薬を使わなくてもちゃんと検査を受けることができるようになりました。中には「昨日行ったあの海賊船に今日も行きたい!」と言う子まで出たほど。

麻酔を使うというマイナスの状態から、検査の時間を楽しめるようになったという大きなプラスへの転換。ここまでドラマティックな例はまれだとしても、こういった「幸せな状況の実現」を目指してUXを企画するのが、ビービットのUXデザインコンサルティングです。

「初めてのお部屋探し」という状況で、ユーザが抱えていた違和感の正体は

それでは本題、ビービットの支援した実例を紹介します。

今回取り上げるのは、アットホーム様の「学生のためのお部屋探しアプリ」プロジェクト。詳しい内容は事例紹介のページにありますので、ここでは先程のコンサルティングプロジェクトのステップに沿って整理していきます。

まずは「ユーザの抱える違和感」を発見すること。これは、企業にとってはマーケットとなる状況を見つけ出すことだと前回説明しました。

ヒントとなったのは、ユーザさんの「めんどくさい」という発言。進学が決まって初めてのお部屋探しをする学生さんの多くが、物件選びを面倒だと感じていたのです。ネガティブな言葉は違和感の現れ、その言葉の裏側にあるものを探っていくと、彼らは「情報が多すぎて物件を選びきれない」という状況にあることがわかりました。

既存の物件情報サイトは、お部屋探しの経験や選ぶ基準を持っている人を暗黙の前提に、とにかく多くの物件に触れてもらうという思想で設計されています。しかし、初めてお部屋探しをする学生さんの場合、何を基準に物件を選んだらいいのかわからないうちに大量の物件情報を浴びてしまうので、考えるべき(だと思ってしまう)ことが多くなりすぎて、自分では選びきれないのです。

お部屋探しにあたってユーザが直面する膨大な検討事項(事例ページより転載)

しかし、進学直前の学生さんがお部屋探しに使える時間は多くありません。結局、大学生協やリアルの店舗に行って相談をしたり、「なんとなく」で物件を決めてしまっていました。

こうした課題に対してプロジェクトチームが描いた”幸せな状況”は、「様々な検討を1つずつ進めることができ、わかりやすい基準で物件を比較できる」という状況。検討のプロセスを1つずつ納得して進められれば、結果的にかかる時間も短くなり、「めんどくさい」なんて思わずに意思決定できるはずです。

お部屋探しはどうあるべきか?理想を実現するための”鍵となる体験”

そうした思いで作られたアプリは、暮らしのイメージを膨らませて希望条件に反映していくフェーズ(計画フェーズ)と、物件情報を見ていくフェーズ(お部屋探しフェーズ)とに分かれています。

その中で”鍵となる体験”は、物件情報に「こだわり合致度」を表示したこと。今見ている物件が計画フェーズで指定した条件にどれだけ合致しているのか、パーセントで表すものです。この数値の高い物件だけを見ていくことで、効率的に、納得感を持って物件選びを進めていけます。

こだわり合致度の表示イメージ(事例ページより転載)

合致度で物件を比較しやすくするために、条件入力にも一工夫。「バストイレ別」などの条件については「あり/なし」の他に「できれば」という選択肢が用意されていて、「できれば」と指定した条件を満たした物件については合致度も上がる、という仕組みです。

こうしたUXの仕掛けがつまったアプリはリリース後の反響も大きく、その後もアットホーム様への支援が続いています。

お部屋探しアプリプロジェクトのまとめ

今回ご紹介したプロジェクト事例を、UXデザインコンサルティングの3つのステップでまとめると、以下の通りです。

1:ユーザが違和感を感じている状況を発見する
お部屋探しをするときに、情報が多すぎて「選びきれない」

2:幸せな状況を描く
様々な検討を1つずつ進めることができ、わかりやすい基準で物件を比較できる

3: それを実現するための鍵となる体験を設計する
こだわり合致度という判断基準の提示

このアプリは名前に「学生のための」と入ってはいますが、ターゲットとしているのは「お部屋探しに時間や手間のコストをかけられない/かけたくないが、情報量が多すぎて選びきれない」という「状況」。それに対して、「先に計画を立てることで判断基準を作る」という体験・コンセプトで応えているのです。

状況を捉えてそこに存在する何らかの課題を解決するというアプローチは、実はクレイトン・クリステンセンが提唱したジョブ理論を参考にしています。クリステンセンはイノベーションを起こすための方法論としてジョブ理論をまとめているため、議論に登場するのは大きなマーケットとなり得る”大きな状況”です。

ビービットのUXデザインコンサルティングでも同様に大きな状況を捉えることが多いのですが、それは大きな状況を変えるUX企画には、正しい調査・思考が必要だから。20年間UXを考え続けてきた経験とその中で培った方法論で、クライアント企業が新しい価値を生み出すお手伝いをしています。

一方で、アフターデジタル時代では”小さな状況”を捉え改善することも大切。そう、今回最初に振り返った「アフターデジタル時代に企業が解くべき課題」の3つ目です。次回は、この”小さな状況”を捉えるために必要なアプローチと、その具体例をお届けする予定です。

【今回取り上げた事例の詳細はこちら】
学生向けお部屋探しアプリの開発を企画段階からご支援。「既存のお部屋探し体験のアップデート」とは?

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